Skip to content

模擬衛星の概要とミッション

本ゼミで開発・使用する模擬衛星の物理的な構成、動作原理、および達成すべきミッションの全体像について説明します。


1. 模擬衛星の物理的構成と設置方法

Section titled “1. 模擬衛星の物理的構成と設置方法”

模擬衛星は、宇宙空間での姿勢制御や観測ミッションの基本原理を地上で疑似的に体験・開発できるように設計された教育用モデルです。

模擬衛星の外観

模擬衛星は、天井や専用のスタンドから糸またはワイヤーで吊り下げられた状態で動作します。

  • 目的: 地上における摩擦抵抗を極限まで減らし、宇宙空間に近い「微小な力(トルク)で回転・姿勢が変化する」環境を擬似的に作り出します。
  • 動作範囲: 吊り下げられているため、鉛直方向を軸とした水平方向(ヨー軸)の1自由度のみ回転が可能です。

2. 姿勢制御の仕組み(リアクションホイール)

Section titled “2. 姿勢制御の仕組み(リアクションホイール)”

本機はスラスタ(ガス噴射)などの質量を消費するアクチュエータではなく、人工衛星で広く使われている**リアクションホイール(Reaction Wheel)**を用いて姿勢を制御します。

  • ハードウェア構成: 連続回転サーボモータ(Feetech FS90R)の出力軸に、リアクションホイールとして機能する**工作キット用タイヤ(ホイール)**が装着されています。
  • 姿勢制御の原理(角運動量保存の法則):
    1. 静止している衛星本体において、サーボモータを駆動してホイールを時計回りに加速させます。
    2. このとき、ホイールを回転させる力の反作用(反作用トルク)により、衛星本体には反時計回りの回転力が生じ、本体が回転します。
    3. ホイールの回転速度を制御(加減速)することで、衛星本体の向き(回転角)や回転速度を自在にコントロールします。

衛星の現在の状態(自己姿勢・運動状態)を把握するため、以下のセンサを用いてリアルタイム計測を行います。

センサ 搭載位置 計測対象 役割
ジャイロセンサ
(ICM-42688)
TOP 基板 角速度 (deg/s) 衛星本体がどのくらいの速さで回転しているかをダイレクトに計測します。制御の安定化(D制御など)に必須となります。
太陽センサ
(S9066-211SB × 4)
TOP 基板の四隅 アナログ光量 4つのフォトダイオードがそれぞれ外向きに配置されています。それぞれの受光強度の比率から、疑似太陽(光源)がどの方向にあるか(相対的な太陽角度)を推定・計測します。
回転センサ
(LBR-127HLD)
MAIN 基板 反射アナログ電圧 リアクションホイールの回転を検出するフォトリフレクタです。ホイールの回転速度や回転パルス数を検出し、ホイール状態の監視や高精度制御に用います。

4. ミッションシナリオ(撮影と観測)

Section titled “4. ミッションシナリオ(撮影と観測)”

受講生がフライトソフトウェアを実装し、最終的に達成すべきミッションの全体像は以下の通りです。

sequenceDiagram
autonumber
participant 地上局 (PC)
participant 模擬衛星 (Pico W)
participant アクチュエータ/カメラ
地上局 (PC)->>模擬衛星 (Pico W): 目標角度 (TARGET) コマンド送信
Note over 模擬衛星 (Pico W): センサで現在の姿勢を推定
模擬衛星 (Pico W)->>アクチュエータ/カメラ: ホイールを駆動(姿勢制御)
Note over 模擬衛星 (Pico W): 目標の方向を向いて静止・追従
模擬衛星 (Pico W)->>アクチュエータ/カメラ: カメラ撮影 (Capture) 実行
アクチュエータ/カメラ-->>模擬衛星 (Pico W): 画像データ取得
模擬衛星 (Pico W)->>地上局 (PC): 画像データを無線分割送信 (Downlink)
  1. 自己姿勢の推定: ジャイロセンサと太陽センサ(フォトダイオード)の値を組み合わせ、現在の自己の向きを推定します。
  2. 目標方向への指向: 地上局から「〇〇度を向け」というコマンド(または自律シーケンス)を受け取り、その目標角度へ向けてリアクションホイールで姿勢を制御します。
  3. ターゲットの捕捉と静止: 目標の角度(観測対象の方向)を向いた状態で、ブレが生じないようにピタッと姿勢を安定(静止・追従)させます。
  4. カメラ撮影 (OV7675): 姿勢が安定したことを検知、あるいは地上局からの指示により、搭載カメラで観測対象(ターゲット)を撮影します。
  5. 画像ダウンリンク: 撮影した画像データ(サイズが大きいため複数チャンクに分割)を無線で地上局に送信します。

5. マイコンの無線機能によるPC通信

Section titled “5. マイコンの無線機能によるPC通信”

模擬衛星の頭脳である Raspberry Pi Pico W には Wi-Fi 機能が搭載されています。この無線機能を用い、ケーブルを接続しない状態(コードレス)で地上局(PC)とやり取りを行います。

  • ネットワーク構成: 模擬衛星と地上局PCは、同一のローカル Wi-Fi ネットワークに接続します。
  • 通信プロトコル (MQTT):
    • ネットワーク上に設置された MQTT ブローカ(Mosquitto 等)を介して通信します。
    • テレメトリ(下りリンク): 衛星は、自己姿勢(角度、角速度)、ホイール回転速度、バッテリ電圧などのデータを毎秒(1Hzなど)JSON 形式で送信(Publish)し、地上局でリアルタイムにモニタリングします。
    • コマンド(上りリンク): 地上局から送信された制御指示(姿勢制御のON/OFF、目標角度の指示、撮影要求など)を受信(Subscribe)し、即座に動作に反映させます。
    • 大容量データ(画像転送): カメラで撮影された画像データは数百KBに及ぶため、1KB 程度のチャンクに分割し、シーケンス番号を付与して順次 Publish します。地上局側はこれを受信し、順番通りに組み立てて画像として復元します。